WRITING

測鉛をおろす

私たちは版画のプロセスが 「境界」を越える行為にとても近いものではないかと考えています。 シルクスクリーンでは、刷りによってインクが版を越えることでイメージが現れ、木版画では和紙と版木とが接しながら、 墨によって互いの内部へ侵食し合うようにイメージが摺りとられます。 何かについて理解しようとするために、 まずそれらと自身を隔てる 「境界」を意識し、 それを越えて外側へ向かうのだとすると、外と内とを区別する過程で、内側である自身について改めて考える必要があります。 この外と内との往還に、版画との共通点を見出しているのです。
「この「境界」を越えることによって生まれる流動性と、 私たちが現在拠点とする瀬戸内海 /琵琶湖という水辺の生活環境とをつなぐ言葉として、本展に 「測鉛をおろす」 というタイトルをつけました。 「測鉛をおろす」 とは、 綱の先に鉛のおもりをつけた 「測鉛」 を海に投げ入れて水の深さを測ることを指します。 私たちは制作のなかで、船上にいるかのよう に揺れ動く自身との関係性を考えながら、海面にたとえられた 「境界」を越えたその先に ついて知ろうと試みています。 そして、それぞれの行為の痕跡を並べてみたとき、そこに 「また 「境界」があらわれ、 新たな気づきを生み出していくのです。 私たちは本展を、こうしてあらわになったいくつもの「境界」へ触れる知覚装置と捉えています。 そこに示された「境界」を意識することは、鑑賞者自身にとっての新たな海底への道を開いてくれることでしょう。

中桐聡美 山田真実